おじいさんがこんな話をしてくれた。 「昔、コバラ(泉川の外山町付近)という所にゴウラ(石ぐろ)があってのお、それは、それは、さびしげな恐ろしいところだった。そこにコバン狸というタヌキがおってのお、よく人を化かしたということじゃ。」 ある日、おばあさんが角野から城下へおつかいに行く途中、ちょうどコバラの下のカシヤブ付近を通りかかると、道ばたの「野つぼ」に人が入っているので、「あんた、そこでなにをしよるんぞな。」と、たずねると、その人は体を洗うしぐさをしながら、「風呂に入っとんのよ。」と、いいながらなおも体を洗うしぐさを続けていたということである。 わたしがまだ小さい頃、いとこの男の子と喜光地の柳川という雑貨屋さんヘアズキを買いに行った。その帰り道はやはりコバラを通らねばならなかった。日は暮れてしまって夜道は暗く、いとこに寄りそうようにして帰り道を急いでいた。 すると、何か足にポツン・ボツンと当たるものがある。恐ろしくて気味が悪くなってきた。きっとタヌキがいたずらをして、小さな石をわたしの足もとに投げていると思い込んでしまった。 早く家に帰りたい、帰りたいと思い急げば急ぐほど足もとに、ポツン・ポツン・ポツンと当たってくるのである。 胸がドキン・ドキンと高鳴ってくる。冷や汗がでてくる。 いとこに話そうか、どうしようか。 うっかり、いとこに話すと先に走って帰られると困るので、こらえにこらえて、やっとのことで家にたどりついた。とても長い時間のように思われた。 家の戸ロに着いた時は、いちもくさんに飛びこんで入った。 家にあがって、よくよく見ると、アズキを入れて背中に追っていた風呂敷に小さな穴が開いており、そこからアズギが1つ1つ落ちて足に当たっていたことがわかったのである。 すっかりタヌキのわるさと思い込み、怖い目をしたのがばからしく、遠い昔の話である。 (外山 源代喜美子 談) |